その日は、会社で昇格劇があった。
特に興味はないつもりだったのに、心の中にそっとザワつきが生まれる。
あの人が昇格しなくて、なぜあの人が?
私も、頑張ってきたんだけどな……。
頑張ったのに、報われない感じ。
この世界って、そんなもの?
虚しさとともにやってくる、静かなガッカリ感。
でもね、もしかしてこれ、「あれ」をまとってたからじゃない?
– 正しくあるように
– 空気を読むように
– 誰かの期待に応えるように
– 責められないように立ち回るように
それらすべてが「わたしらしさ」じゃなくて、
「生き延びるためのスーツ」だったって気づいた瞬間だった。
そんなもの、まとってないと思ってた。
でも実は、しっかり着てた。
私の中の頑張り屋さんが、知らぬ間に着込んでいたスーツ。
だから苦しかったんだよね。
いらなかったね。
もう一度、「わたしらしさ」を見つめてみよう。
不思議だったのは、そのあと。
スーツを脱いだら——
「何かが壊れるんじゃない?」
「不安じゃない?」
そんな声がふっと頭をよぎった。
それは、私の思考じゃなくて、
あの「頑張り屋さん」が心配そうにささやいてきたのかもしれない。
でも実際に壊れたのは、「緊張」だった。
「わたし」は、ちゃんとここにいた。
むしろ——本当の私が、ようやく現れた気がした。
大好きなクリスタルボウルの音の中で、
スーツはふわりと浮き上がり、薄くなっていった。
わだかまりも、肩の力も、あの「頑張り屋さん」も。
【いま、何が見えているか】
昇進しても、しなくても。
賞賛されても、されなくても。
私はもう、わたしを認めている。
誰かの期待に応えるスーツじゃなくて、
自分の「素のわたし」でいられることの心地よさ。
そんな自分で職場に行ってみたら…
「世界が、まるで変わっていた。」
周りのみんなが優しくて、朗らかで、物事がスムーズに進む。
なぜかボーナスもたっぷりいただいてしまった。
そして不思議なことに、
私だけじゃなく、家族や周りの大切な人たちまでもが、なぜかハッピー。
何が起きたの? どういうこと?
何が変わったの?
ああ、そうか。
これは「起きる世界」が変わったんじゃない。
「見える世界」が変わったんだ。
【最後に】
頑張り屋さんスーツ。
それは、悪者じゃない。
私を守ってくれていた、大切な仮の衣。
でも、もうありがとう。
そろそろ、脱いでいくね。
わたしは、わたしとして——
この世界と、ちゃんと向き合いたいから。
「もう、誰かを演じなくていい。
ただ、ここに在るだけで十分なんだ。」
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